5カ国で経験した妊娠・出産の違い
5人の子を、3つの国で妊娠し、2つの国で産みました。同じ「妊娠・出産」のはずなのに、国が変わればここまで常識が変わるものかと、毎回びっくりさせられてきました。
パキスタン:触診なし。しかも「太ってるほど勝ち」の世界
初めての妊娠は、パキスタンでのことでした。当時はまだ若く、これから20年以上、人生の主役を子どもに明け渡す生活が始まるわけです。覚悟がいりました。
JICAの青年海外協力隊の保健師さんの活動先を見学させてもらったことがあります。そこで知ったのですが、母子手帳はもともと日本発祥で、世界に広めようとしているものらしいのです。石鹸を使って手を洗いましょう、みたいな日本なら当たり前すぎることを、一から丁寧に教えている姿を見て、へえー、と唸りました。
現地の私立の産婦人科に通いましたが、日本ではまだ触診が当たり前だった頃、パキスタンには触診という概念そのものがありませんでした。後で知ったのですが、触診をやってる国のほうがむしろ珍しいらしいです。葉酸のタブレットは何となく気が進まず、食事で頑張ることに。染色体検査も、どんな子でも産む気満々だったので受けませんでした。
パキスタンでは、妻は太っているほど良しとされます。豊かさの証だからです。おかげで病院の待合室は、どっちが妊婦でどっちが付き添いの母なのか、見分けがつかない人たちだらけ。先輩ママたちには「そんなに大きくなって、日本帰ったら医者に怒られるわよ」なんて笑われながら育てたお腹だったのに、いざ帰国してマタニティビクスに行ったら、周りは細い人ばかり。私だけ着ぐるみを着てるみたいでした。
パキスタンでは大きなお腹で、頭の上に重たい水がめを乗せて、平然と歩いていく妊婦さんもよく見かけました。妊娠してなくても私には無理です。ちょうど同じ頃、我が家で飼っていた猫も妊娠していて、私が出産のために一時帰国している間に、誰の手も借りずソファの下でひょいっと子どもを産んでいました。母親学級もなし、助産師もなし。それでも生き物ってちゃんと産めるんだなあ、と妙に感心してしまって。あの水がめの女性のことも思い出しながら、「まあ、ダメならダメで仕方ない」と、肩の力がすとんと抜けたのを覚えています。
出産は、都会に住む80歳の祖母(元助産師)のもとで。頼りにはなりましたが、「いい医者はいっぱい知ってるんだけどねぇ、みんな死んじゃったわ」なんていう、なかなかパンチの効いた昭和トークを毎日聞かされました。パキスタンに戻ってから現地で出産した日本人の知り合いは、二人目とはいえ2日で退院して翌週にはもう自宅に招いてくれるくらい元気で、もう強すぎる。
イギリス:健診は少なめ。羊水検査、まさかの一人参戦
イギリスでは公立病院にかかりました。ここも触診なし。妊婦健診の回数もかなり少なくて、「多すぎると妊婦の負担になる」という声が上がって減らされたと聞きました。入院も1〜2泊が基本、理由は「入院費がかかるから」。日本の考えとどっちがいいんだろう。
3人目の妊娠中、ある日病院から電話がありました。「なんで染色体検査のタイミングで受けなかったの?赤ちゃんの首が太くて、異常の疑いがあるから来て」と。「まあどっちにしても産むしなあ」くらいの気持ちで、一人で病院へ。いってみると血液検査ではなく羊水検査。座ったまま、長い針をお腹にブスッと刺す羊水検査を、一人で受けました。日本なら10万円ほどする検査が無料だったことにラッキーと思い相談なしに受けたこと、検査後そのままバスに乗って一人で帰宅したことに、後で夫からがっつり叱られました。日本では家族に付き添われて行き、検査後も安静にしてから帰るのが普通だと、その時初めて知りました。結果が出るまでの2週間は、平気なふりをしながら実は毎晩泣いていました。結果は異常なし。よかった。
イギリスで出産したママ友の中にはドゥーラという役割の他人を呼んでお産をする人や自宅で水中出産をする人もいて、新しい世界を知りました。
南アフリカ:赤ちゃんの体重が分からない
南アフリカは医療水準が高くて、現地の友人に紹介してもらった病院にかかりました。担当はインド人の女性医師。その友人は4回とも帝王切開で産んでいて、「日本だと2回が限度って言われるのに」とこっちが驚く始末。
入院中、1時間おきに胎児の心拍を測りに来る看護師さんは、毎回「測りにきたわよ〜、あれ、(道具は)どこかしら〜」と、まずベルト探しから始めます。整理整頓、頼みます。問診票には「胎盤を持ち帰りますか?」という欄があって、二度見しました。
5人目の出産では、陣痛を和らげられると言われていたバスタブは、蛇口をひねっても水しか出ず。エクササイズ用のバウンスボールに乗って弾むよう指示され、いざ産み出すときは頭や足を支える台も日本のようにはなく、夫が頭を支える係に任命されて、「あなた下手くそねぇ」と看護師さんにダメ出しされていました。無事生まれた後、体重計は頭を右に向けるか左に向けるかで数値が変わる怪しい代物。赤ちゃんの横には、袋に入った胎盤がどんと置かれています。
何より驚いたのは、赤ちゃんが胸に乗った直後、先生も助産師さんもすっと部屋を出て行き、急にシーンと静まり返ったことです。「え、いつまでここに?誰か迎えに来てくれるの?もしかして忘れられてる?」としばらく本気で不安になりました。
退院時には、白い何かが入った袋を渡されました。中身は塩。消毒のためにお風呂に入れて浸かってね、とのこと。日本との違いに、ただただ驚くばかりでした。10日目の検診で黄疸と診断されましたが、日本のように入院中に処置されることはなく、退院後に自宅でライト装置をレンタルするか、追加で入院するかの二択。結局入院させ、毎日母乳を届けに通いました。裸でブルーライトの装置に入れられた我が子は、目にサングラスのプリントされた保護シートを貼られていて、ちょっとした日焼けサロンの客みたいでした。
締め
「日本人なのね、日本人は体が強いから大丈夫ね」と言われたことが何回かあります。そうなんだ〜。触診の有無、健診の回数、入院期間、退院後の風習まで、同じ「出産」のはずなのに、国が変わればこんなにも別物になる。それでも、どの国でも、無事に我が子を胸に抱けたことだけは、5回とも変わりませんでした。